レブンアツモリソウ自生地における菌根菌の分布調査

志村華子,松浦真弓,名村哲至,幸田泰則

(北海道大学大学院農学研究院)

 

 アツモリソウ属レブンアツモリソウは北海道礼文島の固有種であり、初夏に大型の白い花を咲かせ、島の重要な観光資源である。自生地のレブンアツモリソウ群落は盗掘被害によってその個体数が減少し、絶滅の危機に瀕しているが、現在、行政や研究機関、民間ボランティアなど多くの人達が関わり、レブンアツモリソウに関わる生態系システムの保全のため力を尽くしている。

 我々はその一連のレブンアツモリソウ保全プロジェクトの中で、共生菌を用いた共生培養系の確立を担当し、これまでに、レブンアツモリソウの根から分離した菌を用いて効率的にレブンアツモリソウ共生発芽個体を得る方法を確立した。人工増殖法として共生培養を用いたのは将来的に自生地への植え戻しを考慮してのことである。自生地復元のために共生発芽苗を植え戻す場合、レブンアツモリソウにとっての生育適地がどのような場所なのか知る必要があり、次世代の種子発芽のための共生菌が存在するかどうかは生育適地にとって重要な要因である。そこで我々は、種子パケットを用いた菌根菌分布調査を行うことで自生地での最適な植え戻し場所の検討を試みた。種子パケットはレブンアツモリソウの群落がある区画レブンアツモリソウが全くない区画など様々な植生を選んで設置した。パケットの回収は設置1年後の秋に行い、パケット内のプロトコーム数および生育程度を観察した。その結果、発芽は必ずしも親株の近辺でのみみられるわけではなく、親株から数メートル離れた場所でも発芽がみられることがあった。さらに、レブンアツモリソウが全くない場所でもプロトコーム形成はみられた。このような区画には主にヒノキ科ハイネズが生育しており、ハイネズ菌根菌とレブンアツモリソウ共生菌との関連が想定された。3カ年に渡る調査で、やはりハイネズの分布とレブンアツモリソウの共生発芽とは関連があり、ハイネズとともに生育する菌類(外生菌根菌)がレブンアツモリソウの共生菌であり、3者間の共生関係が存在しているのでははないかと考えられた。PCRによる検出では、これまで分かっているレブンアツモリソウ共生菌がハイネズの根から検出されているが、現在さらに、レブンアツモリソウ共生発芽能をもつ菌がハイネズから分離されるか試験中である。また、菌を介したハイネズとレブンアツモリソウ間の養分移動も調査しており、現在、ハイネズから菌、菌からレブンアツモリソウへの養分移動が確認されている。